権力が発生する上で、欠くことのできない唯一の物質的要因は人びとの共生である。人びとが非常に密接に生活しているので活動の潜在的能力が常に存在するところでのみ、権力は人びとと共に存続しうる。したがって、都市国家としてすべての西洋の政治組織の模範となってきた都市の創設は、実際、権力の最も重要な物質的前提条件である。活動の束の間の瞬間が過ぎ去っても人びとを結びつけておくもの(今日「組織」と呼ばれているもの)、そして同時に人びとの共生によって存続するもの、これが権力である。そして、いかなる理由であれ、自分を孤立させ、このような共生に加わらない人は、たとえその体力がどれほど強く、孤立の理由がどれほど正当なものであっても、権力を失い無力となる。『人間の条件』p324
アーレントは、人びとが寄り添い密接に生活していることで「活動」の潜在的能力が高まると考え、そうした生活空間としての「都市」が歴史的に果たしてきた役割を認めている。だから、都市はおおくの人びとの活動が生まれやすい条件を満たしているので、都市には活動の始まりと共に生まれる権力も現れやすいと考えた。そのことを裏打ちするように、共生する人びとからはなれて暮らすことが、権力を失うことになると指摘している。
僕は、「第八の大陸」と呼ばれるようになったネットワーク空間において、おおくの人びとが毎日のように頻繁に出会う空間において、「活動」の潜在的能力が高まりつつあると感じているので、そのことに触れておきたい。
まず、ここでいうネットワーク空間はより限定的な意味において、ソーシャル・ネットワーク・サービスなどを思い浮かべるとわかりやすいだろう。こうした空間では、さまざまな人びとが集まって朝夕の挨拶だけでなく、就寝前後の挨拶までが交わされている。もっとも、ネットワーク空間をこの種類のサービスに限定するつもりは無く、もっと広範囲に及び、その恩恵を受ける個人の意識が有るか無いかによらず、ネットワークそのものにアクセスできる状況を含んでいる。
ネットワーク空間の広がりは、もはやネットワーク・サービス利用者の意識とは必ずしも一致しない。個人が所有するパーソナル・コンピュータやスマートフォンのような通信端末からなされるものだけではなく、これまで受動的な通信装置として扱われてきたテレビやラジオや自動販売機や大型ブルドーザーといった道具的なもの、家庭や建物のセキュリティシステム、スーパーマーケットのPOSシステム、宅配便などの流通システムサービス、人工衛星を使ったスパイ活動、宇宙探査、はたまた体内に埋め込まれた体液診断用チップなど、その利用範囲は留まらない。社会におけるさまざまな活動がネットワーク空間において繋がり、ただ双方にデータがやり取りされているという目線から捉えれば、国家間の外交機密情報までが含まれる。つまり、これまで公的領域においてあった活動とその目的は、異なる活動と異なる目的のなかで、無意識・無自覚な個人を巻き込み始めている。
アーレントは、活動の持続性について懐疑的であるように思う。アーレントは、権力は人びとが行う活動の始まりとともに生まれるからこそ、活動はその目的を終えてしまうと、人びとを結びつけておく理由を無くすと考えた。しかし、「活動の束の間の瞬間が過ぎ去っても人びとを結びつけておくもの」として、今日の「組織」を捉えている。
僕たちは、「組織」の本質について考える必要がある。「組織」とは、今日の社会において、その目的の元に組織員と所在地と資本を登録することによって、一般に知られるものとなる。少なくとも、この日本においては、組織は法人と呼ばれ、組織の目的を果たす為に継続的に活動する主体として捉えることができる。そして、それは、西洋から広まった考えを取り入れただけのものである。アーレントは、組織は多くの人びとが密接に生活していることから生まれた活動としたが、僕たちの目にする組織とは、活動の目的は次々と変えてでも存続することを目的とした活動になっているように思える。
アーレントの考える「組織」について、もう少し砕いて考えておきたい。その立場からも、僕としては、アーレントのことを教えてくれた友人の意見を聞いておきたいと思う。
なので、とりあえず、ここで終了。